疲労研究の産学連携について
疲労は、うつ病や心臓病などの重要な疾患の原因となるだけでなく、労働力を低下させることによって大きな経済的損失を引き起こす重要な問題です。疲労によって引き起こされることが良く知られているうつ病は、2030年には死因の第1位となることが予測されていますし、疲労による経済損失は我が国だけでも、年間17兆円を超えるという統計もあります。
ところが、疲労の重要性に比べて疲労研究は著しく遅れており、この影響で未だ学問分野として確立しているとは言い難いものがあります。この理由は、欧米先進国では日本に比べて疲労の問題が顕在化していなかったことや、疲労とストレスが同じものと考えられていたことなどが挙げられます。
疲労が学問分野として確立していないために生じる問題点として、疲労研究のための研究費を獲得することが難しいということがあります。国からの公的な研究資金が流行りの分野に集中しがちであることは、最近しばしば指摘されています。疲労研究も例外ではなく、疲労の基礎研究のための研究費を確保することは容易ではありません。
このため、疲労研究と産学連携は不可分の関係にあり、1999年~2004年の「文部科学省科学技術振興調整費 生活者ニーズ対応研究(代表: 渡辺恭良先生)」での疲労研究をきっかけに、2003年~2006年の「産官学連携 疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト(大阪市、4大学、18企業が参加)」などの産学連携によって疲労研究は推進されて来ました。例えば、抗疲労ドリンクとして知られるイミダペプチドは、2003年~2006年の産官学連携プロジェクトで、大阪市、大阪市立大学、(株)総医研ホールディングス(総医研)と子会社の日本予防医薬(株)が中心となって開発したものです。
私たちの疲労研究も、このような産学連携のシステムを利用して行って来ました。2005年には、技術移転機能を有する(株)ウイルス医科学研究所(ウ医研)を設立しました。ウ医研は、疲労を科学的に研究したいと考える多くの企業様との共同研究を進め、栄養成分や器具などの抗疲労効果の客観的測定などを行っています。また、これまでウ医研で生じた利益は、全て特別寄付金などの形で慈恵医大に寄付され、疲労の基礎研究にあてられています。この基礎研究費の金額は、最近5年間で2,500万円(2016年度~2020年度)です。ウ医研は総医研の子会社として設立され、総医研が株式の66%を出資し、私(近藤)が株式の34%を個人資産から出資しています。なお、日本予防医薬(株)からの寄付金はありません。
このような企業様の御協力が実を結び、疲労の客観的測定法の開発や疲労の分子メカニズムの解明など多くの知見を得ることができました。さらに、最近では、慈恵医大の先生方の多大なる応援をいただき、2012年~2016年「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(代表: 柳澤裕之先生)」、2017年~2021年「私立大学研究ブランディング事業(代表: 安保雅博先生)の援助をいただくこともでき、ますます疲労研究を発展させるべく努力を重ねているところです。
皆様の御理解を賜れますと幸いです。
ウイルス学講座・近藤一博